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切っ掛けは今年の三月の事だ。
私はその月に、一年の頃から志望していた国立大学に──合格出来なかった。
私の頭は決して悪い方では無い。ただ、良いとも言い切れなかった。私よりも良い点数を取れる人間は大勢いた。
それでも本番なら、受験の時なら……そう思っていたのは事実だ。現に私は点が芳しく無くても、「なんとかなるだろう」という気持ちを抱いていた。
そしてそんな根拠の無い自信は──ものの見事に崩れさってしまった、というわけだ。
不合格を両親に伝えた時、母は顔を歪ませて激昂した。ろくでなし、出来損ない、お前なんか死んでしまえ──私が受験勉強をしていた間、父が帰ってこない事を良いことに、夜遊びを繰り返していた母はそう言った。
父は黙ったままだった。父は怒っていなかった。──既に私への処分を決めていたからだったのだろうと、今は思う。
しばらくして、私は高校を卒業した。周りが進路を決めている中、私だけは何も決まっていなかった。滑り止めで受けた大学に通うことを、父が許さなかったのだ。
家に帰った私の目には、思わぬ光景が飛び込んできた。
私の部屋にあったはずの机や本棚が運び出され、何も無い空っぽの状態となっていたのだ。
突然の出来事に混乱した私の前に、父が姿を現した。父は私に、一つの通帳を差し出した。口座の名義は私の名前で、50万円程の残額が入っていた。
事態を呑み込めない私に父は告げた。
「お前をこれ以上家に置いておくわけにはいかない」と。
「親の義務として、住むところだけは用意してやる」とも。
今まで何もしてくれなかった人が『親の義務』とはなんと滑稽な事かと思うが、ともかく父がしたかった事は理解できた。
結果私は住み慣れた家を出て、見知らぬ土地の古い木造アパートに住み着く事になった。
要するに私は親に──腹を痛めて私を産んだ母と、その母に種を流し込んだ父に──捨てられたんだ。
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