505人が本棚に入れています
本棚に追加
サクッと音をたてながら、パン特有の焼きたての香りが鼻と口から入り込む。しばらく冷めたバターロールしか食べてこなかった私には、このクロワッサンが世界中のどんなパンより美味しいと感じた。
黄身が半熟でトロっとした目玉焼きも、瑞々しい野菜を使ったサラダも、最近は全く食べなかったものだった。温かいコーンスープを飲んだときなんかは、思わず涙ぐんでしまった。
「そこまで美味しかった?」
カフェオレを差し出しながらネロが問いかける。
「うん。私最近こんな朝ごはん食べたこと無かったからさ。なんか感動しちゃった」
「そっか、そう言ってもらえるなら僕も嬉しいよ」
そう言って笑ったネロの顔が、真剣味を帯びてくる。
「どうしたの?」
「うん……悪くないんだよな。品質とかに関しては」
「なんのこと?」
「実はさ、ここにある料理の殆どがボックルの店で調達したものなんだ」
「えー!?」
思わず私は叫ぶ。
言われてみれば、確かにボックルちゃんの店には卵も野菜もパンもあった。
「あいつらは結構、どういったものが美味かったり役に立つかを知ってる。だから決して無知では無い。ただなぁ……アイツら皆小さいから、舐められるんだろうな。だから店が浸透しない」
「ははぁ……」
こんなに美味しい食品を提供できるのに、店は繁盛しない。そのジレンマがとてももどかしかった。
最初のコメントを投稿しよう!