第一章 絶望と異世界と狼男と少女

41/84
前へ
/190ページ
次へ
 サクッと音をたてながら、パン特有の焼きたての香りが鼻と口から入り込む。しばらく冷めたバターロールしか食べてこなかった私には、このクロワッサンが世界中のどんなパンより美味しいと感じた。  黄身が半熟でトロっとした目玉焼きも、瑞々しい野菜を使ったサラダも、最近は全く食べなかったものだった。温かいコーンスープを飲んだときなんかは、思わず涙ぐんでしまった。 「そこまで美味しかった?」  カフェオレを差し出しながらネロが問いかける。 「うん。私最近こんな朝ごはん食べたこと無かったからさ。なんか感動しちゃった」 「そっか、そう言ってもらえるなら僕も嬉しいよ」  そう言って笑ったネロの顔が、真剣味を帯びてくる。 「どうしたの?」 「うん……悪くないんだよな。品質とかに関しては」 「なんのこと?」 「実はさ、ここにある料理の殆どがボックルの店で調達したものなんだ」 「えー!?」  思わず私は叫ぶ。  言われてみれば、確かにボックルちゃんの店には卵も野菜もパンもあった。 「あいつらは結構、どういったものが美味かったり役に立つかを知ってる。だから決して無知では無い。ただなぁ……アイツら皆小さいから、舐められるんだろうな。だから店が浸透しない」 「ははぁ……」  こんなに美味しい食品を提供できるのに、店は繁盛しない。そのジレンマがとてももどかしかった。     
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

505人が本棚に入れています
本棚に追加