ある夜の物語

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しかし鈴音は、 「違うんです春さん。怯えてなんかいません!」 驚いた様子で、春一の下げた頭を上げさせようとする。 「ちょっと恥ずかしかっただけです」 「恥ずかしい?」 服を脱がせたならまだしも、ただキスをしただけだ。 それにキスだけなら、これまでだってけっこう、いや頻繁にしている。 それ以上のことが出来ないからだが、だから、 『今さら?』 と思ったりする。 「何が恥ずかしいの?」 もう一度聞いた春一に、鈴音は頬を真っ赤に染めてイヤイヤをする。 「だって、春さんが格好良すぎて……」 「へ!?」 ちょっとマヌケな声がでた。 「鈴音? 俺たち毎朝顔を合わせてるだろう。なんで、今さら」 なかなか家族と過ごす時間が少ない春一は、朝食を共に取るため、年少組の弟たちと一緒に起きる。 もちろんその場に鈴音もいるから、久しぶりに会えたとか、そういう話ではない。 「なんで今さら?」 これまでの付き合いで、容姿や佇まいなどではなく、もっと内面の結びつきを期待していた春一は、ちょっと拍子抜けした感がする。
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