ある夜の物語

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世の中は12月である。 師走と呼ばれるこの季節は、どこもかしこも忙しない。 それは来生家も同じで、たまに春一が早く帰れば、やれ怪我だ病気だと大騒ぎしている。 自分が仕事でいないときもこんなに賑やかなのかと思うと、頼もしく思う反面少し寂しさも湧いてくる。 12月といえば接待どきで、仕事の付き合いで仕方がないとはいえ、春一はここ最近、日をまたいでからしか家に帰れない。 当然その時間には、家族の誰もが寝静まっていて、 「まあ……、先に寝ててくれって言ったのは俺なんだけどな」 足裏に伝わってくる、さっきまでの団らんのぬくもりが、なおのことわびしさを募らせる。 「それも、あと少しだ」 年始を越えれば、まとまった休暇がもらえるはずだ。 今年も例に漏れずクリスマスディナーの予約を取り損ねた春一は、また鈴音と温泉旅行に行けたら、と考えていた。
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