72人が本棚に入れています
本棚に追加
世の中は12月である。
師走と呼ばれるこの季節は、どこもかしこも忙しない。
それは来生家も同じで、たまに春一が早く帰れば、やれ怪我だ病気だと大騒ぎしている。
自分が仕事でいないときもこんなに賑やかなのかと思うと、頼もしく思う反面少し寂しさも湧いてくる。
12月といえば接待どきで、仕事の付き合いで仕方がないとはいえ、春一はここ最近、日をまたいでからしか家に帰れない。
当然その時間には、家族の誰もが寝静まっていて、
「まあ……、先に寝ててくれって言ったのは俺なんだけどな」
足裏に伝わってくる、さっきまでの団らんのぬくもりが、なおのことわびしさを募らせる。
「それも、あと少しだ」
年始を越えれば、まとまった休暇がもらえるはずだ。
今年も例に漏れずクリスマスディナーの予約を取り損ねた春一は、また鈴音と温泉旅行に行けたら、と考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!