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あ、ちゃんと見たいものもありますよ。と何故か青年は慌てて添える。私が特に表情を変えずにいると、「なんでベルギーなんですか?」と彼は同じ質問を投げた。
私は正直に答える。
「まだ来たことがなかったから」
「いろいろ回ってるんですね」
感心した様子で、瞳を大きく開く青年。私はそのまま尊敬の目で見させておくか、本当のことを話して失望させておくか迷った末、結局いつものように後者を選んだ。
「毎年、一ヶ月だけ、世界のどこでも好きなところに旅行できるんです」
「いいな。お休みとれるんですか?」
「これが仕事みたいなものだから」
青年は益々瞳を輝かせた。「そんな仕事があるなら自分もやりたい」といったところだろうか。本当に、私もこの仕事は好きだ。
四年前、セクシャルマイノリティのための相談所に行って、ゲイの男と結婚した。
親からの目線や、友人からの質問をはぐらかすのに疲れていた私、資産家の叔父に見離されないまま、自分の私生活も守りたかった彼。ニーズの合致といえば聞こえはいいが、要するに偽装結婚だ。
私は彼の会社を手伝っているということになっているが、これもほとんど給料泥棒状態。彼が男を連れ込むに不都合なので、表向きは二人で暮らしているということになっている一軒家にはほとんど寄り付かず、マンションを借りて暮らしている。
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