私は衛兵

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 給料以上のお金はもらっていないので、豪華絢爛とはいかず、また秘密を守るためにあまり人とも会えないが、読みたい本や映画なら、いくらでも取り寄せられる。  それは小さな頃から私が憧れていた暮らしだった。誰にも邪魔をされない、私のお城を持つこと。  彼の夢は、世界を放浪することだった。一年に一度、一ヶ月。向こうの方は連れ添いがいたりいなかったり。夫婦旅行ということにして、日本を出る。  懺悔室で告解をするように私は下を向いたまま淡々と話した。  嬉しそうに話すよう努力をしていた頃もあった。しかし相手の顔に浮かぶ憐れみの表情の前では、心からの笑顔も虚飾に変えられてしまう。  これだから私はせっかくの旅先で日本人と話すのが嫌だった。何故か英語だと、私は嘘をついても、それは自分が後ろめたく思っているからだということをグルグル考えずに済んだ。単純に、こんな複雑な事情を上手く外国語で説明できる自信がないからだ。そういう風に処理できたからかもしれない。  全てを聞いた後でも彼は「いいな」と言った。 「最高の仕事じゃないですか」  私は一拍置いて、彼の顔に社交辞令だとか、空気を読んだ嘘を言っている人間特有の皺(私は長い時間をかけてこれを完全に見抜く術を身につけた)がないことを確認すると、やっと、「そうなの」と力を込めて同意した。 「最高なのよ」 「俺もやりたい」     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加