私は衛兵

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私は衛兵

 ベネルクス三国を網羅したこのガイドブックには、何故か蚤の市の開催場所が載っていることが多い。ニッチな需要を満たすために、小さな街でもどんどん目次に入れるというのが、このシリーズのコンセプト。観光地や食事処を書き尽くしてしまって、他にもう書くことがなくなったら「蚤の市」というのが編者の定番になっているのかもしれない。  私がその朝、ジュ・ド・バルの広場に出かけることにしたのも、ブリュッセル滞在五日目にして、粗方有名な観光地は見て回ってしまったからである。三国だけで使える時間はあと十日程あるが、到着したばかりはいつも時間が短い気がして、何かと急ぎ足にやってしまうものだ。まだ食べていないビスケットとチョコレートは山ほどあったけれど、一日にお腹に入れていい量も、帰りの便の荷物の重さも制限がある。  本当はグラン・サプロン広場のアンティーク市に行きたかった。豪華なの。お土産にできるものがなくても、見て回るだけで楽しいはずよと、この二週間の拠点にしているアパートメントに、清掃にやって来た管理人が今朝、私に教えてくれたのだ。     
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