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ブゥゥゥゥゥゥ~っ…!
コテコテのお約束にも口をふさがれた六兵衛は、くしゃみの代わりに大きいのを一発、尻の口から静かな深夜の代官所内に思いっきり撃ち放った。
「なんだ、今の音は!?」
「誰だ? 誰かそこにおるのか?」
当然、闇夜を劈くその大音響に、代官所の役人やら用心棒として雇われている湯煙一家のヤクザ者達やらが、暗い屋敷のあちこちから一斉に集まってくる。
「なんだ、貴様らは!?」
「く、曲者っ!」
あまり時を置かずして、二人は大勢の敵にすっかり周りを取り囲まれてしまった。
その手に手に持った燈明により、彼らの姿も闇の中にすっかり映し出される。
「うぁあ、やっちまったあ……」
「ハァ……ほんと、おまえにはがっかりだよ!」
あわあわと、仕出かした大失態に青い顔の六兵衛を、格之進は深い溜息とともに怒鳴りつけてはみるものの時すでに遅しである。
「いったいなんの騒ぎでございますか?」
「まさか代官所に賊でも押し入ったか?」
やがて屋敷の奥の方からは、商人らしき恰幅のよい中年男と、高価な錦の羽織を着た武士も姿を現す。おそらくはそれが悪徳商人・上野屋と、代官の阿久田意寛であろう。
「んん? ……ああっ! てめえらは昼間の……」
また、中には顔中黒アザを作った、あの格之進にボコボコにされたヤクザ者達の姿も垣間見える。
「ええい、やむを得ん! ご隠居に無断で悪いが、六、アレを使うぞ! 印籠を出してくれ!」
さすがの格之進でも多勢に無勢……二人…いや、六兵衛は戦力外なので一人でこの場を切り抜けることが困難であると判断した格之進は、前の宿から取って来た印籠を渡すよう六九兵衛に催促する。
「がってん承知の助でさあ! へい! 格さん!」
その言葉に、六兵衛は待っていましたとばかりに懐へ手を挿し込むと、紫の袱紗に包まれた長方形のものを取り出し、うやうやしく格之進に手渡す。
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