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「なんと! 素手で南京錠を……もしや、蔵の火薬を探りに来た幕府の隠密!?」
「まさかな。が、いずれにしろ代官所に忍び入るとは賊にそういない。後々面倒がないよう、口を封じておくか……かまわん、斬り捨ててしまえ!」
他方、二人の茶番劇をウケもせずに眺めていた上野屋と代官阿久田は、わけがわからないながらも二人を敵と判断し、配下の役人とヤクザ者達をけしかけてくる。
「てやあっ! ……うごっ…」
「きぇぇぇーっ! ……んがっ…」
だが、格之進は強い。だんびら抜いて襲い来る相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、武器も使わずに次から次へと薙ぎ倒してゆく。
やはり水戸光圀のもと、長年、佐々木助三郎とともに週一回の周期で諸国の悪党どもとやりあってきた格之進の強さは並ではないのだ。
「ええい、何をしておる! 相手は一人ぞ! 皆で一斉にかかれい!」
「くうっ…次から次へと切りがないな……」
とはいえ、所詮は一対多数の不利な戦い……相棒の助三郎もいない今、さすがの格之進も防戦一方である。
「いやあ、こりゃあ暗くてなんにも見えねえや……」
そうして格之進が孤軍奮闘する一方、蔵の中で火薬の在処を捜し始めた六兵衛であるが、当然、闇夜の蔵の中では明かりがないとどうにもならない。
「こいつぁ、燈明か何か用意しなきゃぁ……あ、そうだ! そういや、やつらが持ってたな……」
そう思い至った六兵衛は、急いで蔵の外へと戻り、周囲をきょろきょろと見回す。すると、足下に転がった役人の一人の手に、ちょうどいいもののあるのを見つけた。
それは〝龕灯〟と呼ばれる台形の筒に蝋燭を入れた照明具で、上下左右、常に平衡を保って回る二つの鉄輪でできた蝋燭台により、どんなに傾けても火が消えないよう、細工の施されている優れものだ。
「お! 渡りに船たあこのことだ。ちょっと拝借……」
「おい、六! 早くしろっ!」
「へいへい、今やってますよぉ。もうしばらくの辛抱でさあ」
迷うことなく龕灯を拾った六兵衛は、敵を組み伏せながらも文句を口にする格之進を軽くあしらうと、また急いで蔵の中へと走り戻る。
「さあ、今回は他のみんなもいないことだし、おいらががんばって格さんを助けなきゃ!」
だが、そのいつになくやる気を見せたのがいけなかった。
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