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「……お、お、お、おいらはお先に失礼いたしやあ~す!」
「うごっ…!」
次の瞬間、突如、格之進から離れた六兵衛は脱兎の如く走り出し、火事場の馬鹿力とでもいうやつだろうか? 立ちはだかるヤクザ者も勢いのまま突き飛ばすと、一人でさっさと門の方へ逃げて行ってしまう。
「あっ! おい待てっ! おまえだけズルいぞっ!」
一瞬の後、格之進もその後に続いて全速力で走り出す。
「…ハッ! に、逃がすなっ! ひっ捕らえろっ!」
「ま、待ちやがれえっ!」
突然のことに呆然と見送ってしまった代官阿久田は、我に返ると慌てて配下の者達に逃げた二人の後を追いかけさせる。
「…ハァ…ハァ…またやっちまったあ~っ!」
「おい! おまえ、いったい今度は何をやらかし…」
だが、二人が息も切れ切れに、門脇の通用口から外へと飛び出したその瞬間。
ドオォォォォォーン…!
背後で雷が落ちたかのような轟音とともに、山をも崩さんばかりの大爆発が巻き起こった。
「うおっ…!」
「あひっ…!」
強烈な爆風と、吹き飛ばされた門の瓦礫により、格之進と六兵衛の二人ももんどりうって地面に叩きつけられる。
「うくっ……あぁ、なんたることだ。幕府の大事な代官所がかような姿に……」
「痛ててて……うわあ、えれえこと仕出かしちまったぁ……」
あちこち痛む体を起こして二人が後方を振り返ると、代官所は木っ端微塵に吹き飛ばされ、月のない真っ暗な闇夜にちらちらと赤い炎を方々から上げている。
また、四方に散った瓦礫の中には、役人やヤクザ者達の倒れている姿もちらほらと見受けられる……。
どうやら今の爆発で、全員、代官所とともに全滅した様子だ。
「へ、へへ……へへへ……ま、まあ、何はともあれ、悪党どもを懲らしめることはできたみたいだし、これにて一件落着ってことで」
もう、なんと言っていいのかわからないその状況に、六兵衛は苦笑いを浮かべて誤魔化しを図ると、自分の仕出かした大失態を善行にすり替えようとする。
「何が一件落着だっ! ハァ……ほんと、おまえには毎度がっかりだよ!」
そんな、相変わらずのがっかりな六兵衛に、格之進は大きく深い溜息を吐くと、いつもと同様の文句を口にした。
(水戸黄門外伝―がっかり六兵衛奮戦記― 了)
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