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「占い? おい、天気でもないのにそんなもので正しい道が…」
「んじゃ、表が出たら右、裏が出たら左だ。そうらよっと!」
そして、凛々しい眉をひそめて疑問を呈する格之進も無視し、六兵衛は思いっきり脚を振り上げると、結い紐をゆるめた右足の草鞋を天に向かって勢いよく蹴り上げた。
………ところが。
「あぁっ! しまったぁ!」
生来の不器用である六兵衛は勢い余り、明後日の方向へと飛んで行った草鞋は道端の藪を飛び越えると、その向こう側の茂みへ消えていってしまう。
「痛っ! ……おい! どこのどいつだ!?」
すると、これまた予想外のことに、草鞋の落ちた藪の向こうからはそんな男の粗野な怒鳴り声が聞こえてくる。
さらに時を置かずして、人の背丈もある藪草を掻き分けながら、六名ほどの男達がわらわらと二人の前に姿を現した。
歳は若衆から中年までまちまちだが、皆、〝温泉〟柄の屋号が入った揃いの印半纏を羽織り、着流しの腰には長脇差を落とすように差している。その人相の悪さからしても、明らかにカタギの者達ではないであろう。
「これを投げつけたのはてめえか!?」
その内の一人、月代に土の付いた血気盛んな若い男が、手にした草鞋を六兵衛に突きつけながら、血走った眼で怒鳴り上げた。
「いえ、おいらは投げたんじゃなく、蹴り上げたんで……」
「んなこと聞いてんじゃねえんだよ! やっぱりてめえの仕業か! 俺の頭に草鞋ぶつけるとはいい度胸してんじゃねえか。この落とし前、どうつけるつもりだコラ!」
だが、六兵衛は天然にも空気を読まず、質問の意図からはだいぶ外れた細かい訂正を入れて火に油を注ぐ。
「まあまあそんな怒らずに。わざとじゃないんで勘弁してくださいよ。あ、それよりその草鞋、落ちた時どっちが上でしたかねえ。表ですかい? 裏ですかい?」
「チっ…ふざけた野郎だ。おい、かまわねえ、やっちまえ!」
それでもまるでお感じになく、ますます癇に障るようなことを暢気にも尋ねてくれる六兵衛に、舌打ちした男の号令一下、そのヤクザ者らしき一団は手に手に長脇差を引き抜いて二人を取り囲んだ。
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