水戸黄門外伝―がっかり六兵衛奮戦記―

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「ひいっ! こ、こういう時は格さんの出番ですよ。皆さん、落とし前の方はあっしの代わりにこっちの人がつけてくれますんで」  ここに到り、ようやくヤバイ状況であることに気づいた六兵衛は、ガタイのいい格之進の背後へと慌てて逃げ隠れる。 「ハァ……ほんと、おまえにはがっかりだよ」  そんな、自分で盛り上げるだけ盛り上げておいて、その尻拭いは全部丸投げする困った六兵衛に、格之進はいつものことながら、心の底よりがっかりな溜息を吐いた。  今さら言うまでもないが、彼の〝がっかり六兵衛〟という通り名は、こうして周囲の者を常に「がっかり」させるところからきている。 「んなろう! かばうんならてめえも一緒だっ!」  二人の寸劇によりいっそう怒りを増したヤクザ者達は、一斉に長脇差を振り上げて襲いかかる――。 「――く、クソう! 憶えてやがれ~っ!」  だが、数瞬の後、顔中アザだらけのボコボコになっていたのはヤクザ者の方だった。 格之進の百戦錬磨の柔ら術で容赦なく叩きのめされた男達は、紋切り型の捨て台詞を吐いて、ほうほうの(てい)で逃げ去ってゆく。 「ああ、そうだ。やつらに道聞けばよかったな。すっかり失念していた……」  パンパンと手を払い、身の程知らずなゴロツキ達の背をいつもの如く見送った格之進は、忘れていたその問題を思い出して眉根をひそめる。 「そうですよ。まったく、格さんはうっかり者ですねえ」 「なんだとっ! おい、六! もとはといえば、あれもこれもすべておまえがなあ…」  そんな格之進をヘラヘラと笑いながら眺め、自分のことは棚に上げて小馬鹿にするようなことを平気で口走っている六兵衛に、いい加減、堪忍袋の緒が切れた格之進が目を吊り上げて詰め寄ろうとしたその時……。 「いやあ、なんとお強い……」 「どなたかは存じませんが、危ないところをお助けいただき、どうもありがとうございました!」  先程、ヤクザ者達の現れた藪の中から、今度はボロを着た老人と、それを支えるやはり薄汚れた恰好の若い娘が這い出てくる。二人とも手甲(てっこう)脚絆(きゃはん)、頭には頬かむりをし、何やらつい先刻まで穴掘りでもしていたかのような風体だ。
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