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「助ける? いや、なんのことだかさっぱり……」
「あたしとおとっつぁん、鉱山を逃げ出して追われていたんです。でも、あわや捕まるというところで草鞋を投げつけていただき……その上、あっという間に追い払ってまで……」
礼を言われる筋合いがわからず、怪訝な顔で首を傾げる格之進に、目をキラキラと輝かせた若い娘は熱い眼差しを向けて説明する。
「いや、あれは別にそなたらを助けたんじゃなく、この六兵衛のせいで絡まれたサンピンどもをちょっと懲らしめてやっただけで……」
何やら予想外にも人助けをしてしまったらしく、妙に感謝されてしまう格之進達であったが、そんなつもりはさらさらなかったのでなんだかとても居心地が悪く、困った顔で言い訳めいた言葉を口にする。
「そうですよ。格さんが勝手にやったことなんで気にしないでください」
「おい! もとはといえば、おまえがなぁ……いや、それよりも今、鉱山から逃げて来たとかなんとか……」
格之進の言葉を受け、六兵衛も手をひらひらと振って謝辞を拒むが、「お前が言うな」という面持ちで振り返った格之進は、ふと、娘の口にした気になる言葉に思い至る。
「へえ、あっしら村のもんはお代官さまに命じられ、硫黄の隠し鉱山で無理矢理働かされてるんでさあ」
その問いには娘に代わって老人の方が答えた。
いや、老人のようにくたびれてはいるものの、〝おとっつぁん〟ということはもっと若いのかもしれない……その実年齢より老けて見える容姿も、隠し鉱山とやらでの過酷な労役が原因なのだろうか?
「どうやら深い事情があるご様子……ここにいては、やつらが仲間を連れて戻って来るとも限らん。とりあえずはどこか身を隠せる場所へ移りましょう」
「へえ。ですが、追われるこの身では家に戻るわけにもいけませんし……」
のっぴきならない親子の事情を察し、まずは場所の移動をと促す格之進であるが、頼る当てもない哀れな娘は眉根を「ハ」の字にして困惑する。
「おお、そうだ! 確かこの山の上に使っていない炭焼き小屋があったあったはず。あそこなら誰も来ません」
すると、老人…否、父親の方が思い出したようにポンと手を叩き、背後にそびえる山の上を指さす。
「よし、ではそこへ参ろう。行くぞ、六!」
「へい!」
その案には格之進と六九兵衛も即決で首を縦に振り、二人は助けた親子とともにその隠れ家へと向かった――。
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