水戸黄門外伝―がっかり六兵衛奮戦記―

6/14

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「――なるほど。それで鉱山でこき使われているというわけか……」 「へえ。その上、毒の煙にやられておとっつぁんは体を壊すし、もう我慢がならなくなっておら達逃げ出したんです。だども、途中で見張りをしているヤクザ達に追いつかれてしまい……ほんとにさっきは助かりました。ありがとうごぜえます!」  忘れ去られた廃屋ながらもまだ充分使える炭焼き小屋へと移動し、格之進と六九兵衛は親子から詳しい事情を聞いた。  それによると、彼らの村は天領(※幕府直轄地)であり、代官の阿久田意寛(あくだおきひろ)が治めているのであるが、阿久田はこともあろうに地元の商人・上野(こうづけ)屋、地回りのヤクザ・湯煙の玉五郎と結託し、隠し鉱山から掘り出した硫黄でご禁制の火薬を作り、密かに売り捌いて暴利をむさぼっているというのだ。  さらにはその硫黄を安価で採掘するため、村人達は労役と称して毒煙の上がる危険な谷底に閉じ込められ、いつ果てるともなくタダ働きを強いられているそうなのである。 「私利私欲のために村人を苦しめるばかりか、幕臣であるにもかかわらず、謀反に使われるやもしれぬ火薬で金儲けをはかるとは……断じて許さん!」  久々に火を入れたであろう古びた囲炉裏の前で、話を聞いた格之進は閻魔の如き形相になって憤る。 「かような輩、ご隠居が聞いたら怒り心頭で卒倒してしまうだろう……ああ、そうだ! ちと尋ねるが、草津の山中にあるという有名な秘湯はもしやそなたらの村の近くではござらぬか?」  そして、自分以上に正義感の強い、頑固な老主人のことを口にした格之進は、またも忘れ去っていたそのことを思い出して唐突にも親子に尋ねた。 「秘湯? ……いやあ、うちの村近くにも湯くれえ出てるが、そんな話題になるようなもんじゃないし、そりゃあたぶん、山を三つほど越えたとこにある村のことだな。ほら、おら達が助けてもらった二又の道を反対側にずっと行ったとこだ」  だが、娘の父親は腕を組んで少し考えた後、格之進の望みとは相反する答えを返す。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加