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第一話
「また来年、この月の下で」
いつものように、ユウは闇に融けて消えてしまった。
わたしの頬をつたう涙は、手にした花束にしたたりおちて夜露とまじりあっていく。
ユウがくれた黄色く可憐な菜の花。
わたしの名前「花菜」の字をひっくり返した花。
ーー元気いっぱい、快活な愛、豊かさ
そんな花言葉まで逆さまだった。
古ぼけた家で祖母と二人暮らしの、痩せっぽちで気弱なわたし。勉強も運動も自信なんか少しもない。
「パパはどこ?」
小学五年生になる前の春休み、高熱でしばらく寝込んで目覚めると、わたしのそばには祖母しかいなくなっていた。
「死んでしまったんだよ。でも、空から見守ってくれてるからね」
祖母は泣きそうな顔で言った。
わたしはパパっ子で、急に父がいなくなったことをなかなか受け入れられなかった。
父の死後、母は都会で働くためにわたしを祖母に預けたという。よく手紙やプレゼントを送ってくれたけど、会いには来てくれなかった。
両親に守られている同級生たちに引け目を感じるなと言われても無理なことで、わたしは教室のすみで小さくなり、どうしようもなく目立たない子どもでいるしかなかった。
ユウと出逢ったのは、そんな暮らしが一年ほど続いたころだった。
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