温泉旅行

25/25
前へ
/359ページ
次へ
「佳波さん」 「ん?」 歩きながら佳波さんが私を見る。 そんな何気ない表情が大好きで。 「いっぱい喧嘩しましょうね」 そう言ったら佳波さんは可笑しそうに笑った。 「なにそれ」 「喧嘩しても仲直りしたらもっと仲良くなる気がしません?っていうか、絶対そうですよ!」 力いっぱいそう言った私を佳波さんは呆れたように見たけど。 「そうだね。……亜夜も言ってくれる?」 「え?」 何を言うんだろう。別に何でも言えるけど。 分からなくて佳波さんを見ると佳波さんは言った。 「月が綺麗だね」 その目は全く月など見てなくて。 真っ直ぐ私に向いている。 そんなこと言わなくても言うのに。 遠回しじゃなくてはっきりと。 でも今は、 「私、死んでもいいです」 ぎゅっと強く握られた手を私も握り返して。 「アイス食べたいです」 そんなどうでもいいことを言って熱くなった頬を隠した。 ーー私はあなたのものです。
/359ページ

最初のコメントを投稿しよう!

341人が本棚に入れています
本棚に追加