始まりは・・・

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その場所で煙草を吸うたびに同じことを繰り返し考える。 (ここから飛び降りちゃおっかなー・・・ でも、三階だしなー、死ねるか、死ねないか微妙だよな・・・ もし生き残ったらかっこ悪いよな。明日からどんな顔して会社にこればいいんだ? いや、会社に来れるような元気があればいいけど、中途半端な状態で生き残ったらみじめだよな・・・家族もいないし、一人で病院生活はきついな・・・ いっそ、本社の屋上から飛び降りるか・・・ イヤ、それは嫌味だろう。第一、本社へ行く用事がない。 用事もないのにうろうろしてたら警備に掴まるだろ。掴まっていろいろ聞かれたらめんどくさいし・・・ あ、それ以前に俺は高所恐怖症だった。高いところムリだ・・・) 「バカなこと考えてないで、仕事しよ・・・・」 一回考えれば答えなど簡単に出せるようなアホなことを、毎日、毎日繰り返し考えていた。 それほど状況に追い詰められていた。 (後4年。あと4年この状況を我慢すれば定年退職だ・・・) 心の片隅で必死で気持ちを落ち着かせるもう一人の自分の声。 だが、根っからの仕事人間に、何もせず一日そこにいろと言われるのは、生きたまま死んでいろと言われるのと同じことだった。 だからその場所で煙草を20本吸えば、同じことを20回考えるのだった。 「いっそ、煙草やめるかな・・・」 それも何度も考える。そして、それこそできるはずもない事だと知るのに数分もかからず、やっぱり同じことを繰り返し考える。 そして又、煙草を吸いにそこへやって来た・・・ その時、同じようにここへやって来たのは、 20歳、大下時雄 グローバルTKには宅配のアルバイトで度々やってくる。 ごく平凡などこにでもいる大学生。地方出身者でどうしても訛りが取れず、恥ずかしくて人と話せない。 本当はおしゃべりが大好きで、人も大好きで友達もいっぱいほしいと思っている。 けれど、やっぱり今日も誰とも話せなかった・・・ バイトの合間緊張をほぐすためにここへ来る そして思い切りため息をつく 「ハァ~学校辞めて田舎かえっかなぁ~おがちゃんごしゃぐだろっなぁ~」 今日、その時間のその場所の端っこと端っこで男が二人、ハタと顔を見合わせ愛想笑いで会釈し、視線を外したあと、肩を落とし大きくため息をついていた。
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