手紙

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 川野美佳子38才は、やっと独身生活にピリオドを打ち、めでたく結婚することになった。住み慣れた家の部屋を売ることになり、部屋を片付けていたら、押し入れの中から、15才の頃にお年玉で買ったCDラジカセが出てきた。 「わぁ! 懐かしい」  25年前、母子家庭で育った美佳子は、高校進学も危ぶまれるほど、貧乏な暮らしをしていたが、母は、昼や夜も働きながら、美佳子を高校3年間通わせてくれ、その無理がたたったのか、病気になり、美佳子が19歳の時に亡くなった。それでも、美佳子は、高校の時にダンス部に所属し、創作ダンスに熱中する女の子であった。元旦に母からお年玉を渡されて開けてみたら、10000円が入っていた。 「これで好きなものを買いなさい」 「こんなに?いいの?」 「うん、美佳子の喜ぶ顔が見たいのよ」  美佳子は、早速電気屋に走り、欲しかったCDラジカセを買った。それからは、家でもダンスの練習に明け暮れていた。  それからは、経理の仕事をしながら、お金を貯めてダンス教室を開き、サラリーマンと出会い、結婚に至ったわけである。  ラジカセのそばに母からの手紙が置いてあった。 「この手紙を読んでいるということは、結婚し、この家を出る時だと思います。高校生の時に足の豆をつぶしながら一生懸命ダンスの練習をしていたのを私は物陰で見ていました。私も若い頃ダンスをしていましたが、あなたのようには上手く出来なかった。才能がなかったんです。封筒の中に入っているのは、私の好きな曲、"ボレロ"です。ダンス頑張って続けて下さい」  美佳子は、そのCDをラジカセにセットして、華麗にダンスを踊る。曲が終わると美佳子は、ラジカセを抱きしめ泣き出した。 「お母さん、ありがとう!」  CDラジカセを大事に段ボールの中に閉まった。
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