【一】

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「あら、今日はプロポーズないんですか?」 よう子の軽口に、松尾氏は重々しく頷いた。 「言いすぎは逆効果だと気づいた」 「今頃ですか」 松尾氏はそれには答えず、フフンと笑って聞いてきた。 「ところで今日は何日?」 「12月22日ですよ、クリスマスまであと少し」 「ありゃ、ちょっと早かったか、まあいいや。その辺にスケッチブックあるんだけど、取ってくれないか」 乱暴に転がされているのを、よう子は松尾氏に手渡した。 松尾氏は、長い指で小さなスケッチブックの表面を愛おしそうに撫でた。 そのくせ、ほいっと投げるようによう子に押しつけた。
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