謎その二。 借りられっぱなしの本

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例えば......とある花の切り絵師が突然異世界に転生されて、意外にも住みやすい世界に不安であった心は晴れわたった。 そんなある日アルタイルの奇跡に心動かされ、自分の本来有るべき姿を考えるうちに犯罪に手を染めて霧の中に姿を消した。 いや、さすがに阿呆らしい。 切り絵師がどうなろうと勝手だが、全くもって意味が伝わってこない。 一旦この仮説は保留だ。 では、借りた本がバラバラなのは本当に意味が無くて、さっき俺が思った通り読書家なのかもしれない。 一つ息を吐いて、 「一先ず、貸し出された本の謎については置いておきましょうか」 貸し出し表を机に戻し、腕を組んで天井を睨む。 多目的室の蛍光灯が一本、視界に入る。 太陽の日差しだけでもかなり明るいから電気はついてないのか。 「先輩。 これらの本は一度に借りられたんですか?」 質問をしたのは広太だ。 視線だけ向けるといつのまにかシャーペンを耳の上に差しているた。 そうなると記者ではなく競馬に熱中している人にしか見えない。 先輩は軽く微笑んで、 「ええ、そうね。 それがなにか?」 「僕が考えたのは複数人による犯行です。 さすがに六冊を一人で借りるのは大変だ」 「でも、複数人でこんな事する理由はあるのかしら」 先輩の言葉を遮るように、広太は自信満々な表情で人差し指をピンと立てる。 「返却期間を待たずに本を読みたかったからでしょう!」 ......ほう?     
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