第一章 うつけの戯《たわむ》れ

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「若を!!お護りするのじゃ!!」 集団の最後尾を駆ける政秀の上ずった声が響く。 尋常ならざる速度で駆ける先頭の男。 まさに小屋に跳び込まんとする足軽然とした男に切り掛かる。 間一髪。 身体全体で跳びかかる(ましら)のような一撃。 辛うじて刃を合わせた男は、その勢いに呑まれ(もつ)れたままに入口から弾かれる。 跳びかかった小男は縺れたままに剣激を繰り出す。 接近戦の手練れに違いない。 左腕の腱と脇腹が(えぐ)られた。 足蹴(あしげ)にしてなんとか小男を引き離し、間合いをとって太刀を構える。向き合ってみると幼さを残した猿のような(つら)。 好戦的で残忍さを(にお)わせる笑みを浮かべている。 足軽男は右手に太刀を持って間合いを測りつつ、長数珠の巻かれた左手で印を組む。 「オン バサラ ソワカ!」 対する猿面(さるづら)の男が驚愕の顔で足軽男の背後を凝視する。 『こやつ、見えるのか!?』 足軽然とした男の背後に、おぼろに浮かぶ十二神将・伐折羅(ばさら)顕象(けんしょう)。 全ての者に見える訳ではない。視る力のある者だけだ。 そこに遅れて参じた供の者らが刀を構える。 足軽男は既に手負い。五対一と多勢の様相だ。息は上がっているものの余裕の表情が浮かんでいる。
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