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「殺してはならぬ!!捉えよ!!」
未だ随分と後方の政秀が叫ぶ。
が、次の瞬間、猿面の男が大きく後ろに跳び退る。
刹那、4人の供はその場に崩れ落ちる。
踏み込んだ足軽男の太刀から血飛沫が跳ぶ。
「なっ!?」
まるで若の様な剣戟。とても常人のものではない。
この足軽然とした男も【憑き人】か?
猿面の男は体勢を立て直すと同時に再び跳びかかる。
「待てっ!!」
敵うはずはないと思って咄嗟にとめようとしたものの、猿面は足軽男と剣戟を交わし渡り合っている。
人間同士の剣闘とは思えぬ激しい打ち合い。
『この者もか!?』
政秀は小柄な猿面の男の名を知らなかった。若が最近気に入ったようで近くに置くようになった男だ。
見た目そのままに「猿」「猿」と若が呼びつけるものだから「猿」という通り名で認識していた。
しかしいったいどうしたことだ。
若からぞんざいに扱われて下卑た照れ笑いで応じていた小男が、目で追うのもやっとの攻防を繰り広げている。
『信長の側近に【憑き人】がいるという情報はなかった』
それも薬師如来十二神将の一柱に数えられる伐折羅を宿す自分と渡り合う程とは。
次々と繰り出される猿面の剣戟。人間の剣術とは違う変幻自在の動きに翻弄される。
速さは猿面が上回るか。
足軽男は防戦に追われる。間を取ろうとすると石礫が飛び来る。
剣と投石を組み合わせる者などそうはいない。
しかもこの威力。常人ならば石礫を喰らっただけで致命傷だ。
それでも剣戟後の一瞬の隙を見逃さずに一撃を叩き込む。
受けようとした猿面は太刀を砕かれ、重い衝撃に大きく吹き飛ぶ。
『跳ばれた!』
追撃を見舞おうと踏み込むも、猿面の男は身を翻して小屋の脇の木に登り逃れる。
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