第一章 うつけの戯《たわむ》れ

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木の枝に登り、肩で息をする猿面。右腕が変に曲がってかなり出血している。 憤怒の相で顔を真っ赤にし、男を(にら)みつける。 「うがぁぁぁあああ!!!!」 慚愧(ざんぎ)の念(=悔しさ)が咆哮(ほうこう)となって漏れる。 『顕象(けんしょう)!!』 咆哮と共に、猿面の男の背後に浮かぶ顕象は怒り、猛り狂う【猿】。 驚かされるのはその顕象の鮮明さだ。 脇差(わきざし)を抜き、枝から跳びかかる猿面。 数戟を受けるも速度、力強さ、共に先程までを大きく凌駕している。 そして足軽男は疲労が現れている。 受け流す剣戟に身体が大きくブレる。 『まずい!!』 避けようのない猿面の一撃。 『金剛力(こんごうりき)!!』 身体の硬度を増して受ける。 派手に吹き飛ぶが身体は岩の硬度で殴った猿面が痛みで呻き声をあげる。 それでも猿面の攻撃はやまない。 やがて防御一辺倒になってしまった足軽男の顕象が蝋燭の吹き消されるがごとくに消え失せる。 受け流すことのできなかった強大な力が容赦なく身体を吹き飛ばす。 地面に打ち付けられ立ち上がれない。 「カッ!!グッハ!!」 多量の吐血。 嬉々として跳びかかる猿面。 トドメと振りかざした脇差が弾かれる。
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