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「若!!お待ちください!!なりませぬ!!」
平手政秀の静止の声も聴かずに、男は馬を走らせる。
鷹狩りで獲物を深追いしすぎていた。国境を超えている。
年も明けたばかりの寒空の下、男は薄手の湯帷子に反物を着流すようにはおっている。朱色や萌黄色の紐で茶筅のように髷を結い、朱鞘の大太刀を差している姿はこの時代、他に類を見ない。
政秀は供の者を急いで追わせる。が、男の馬は格段に速い。
男の視線の先には優美な装飾を施した駕籠を中心とした10人程の行列が。
駕籠の中の人物は相当な身分に違いないと思われる程の装いだ。
土埃をまきあげ近づく巨躯の馬に跨った若武者。驚いた護衛の者が慌てて刀を抜く。
「止まれ!!何も…ッ」
構えた刀ごと首を跳ね上げる豪刀。
予期せぬ突然の襲撃に護衛の武士が刀や槍を構えて若武者を囲む。
「待たれよ!!こちらを土岐氏の者と知っての狼藉か!?」
荘厳な鎧を纏った武将が声を荒げる。
美濃土岐氏。この当時、斎藤道三に敗れ勢力を失っているといっても清和天皇を祖とする清和源氏の流れをくむ名門である。
「は!!それがどうした!!」
男は馬を跳び下りると問答無用とばかりに刀を振るう。
応じる武将の太刀を弾き、その身体までも袈裟斬りに一刀両断。
細身の若武者の力とは思えぬ剣激だ。
「きゃ!!」
血飛沫が雨のように降り注ぐ駕籠の中から若い女の悲鳴。
男の視線が駕籠を捉える。
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