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護衛の者たちは駕籠を護ろうと決死の形相で若武者に挑みかかる。
しかしあまりにも脆い。荒れ狂う風に吹き散らかされる枯葉のごとく、次々に腕が、槍が、頭が舞い散る。
止めるために追いかけてきた者たちが到達する前に、止めなければならなかった物事の大半は済んでしまった。
男は血の滴る太刀を肩に担ぐと、左手で駕籠の引き戸をむしり取る。
中には怯えた眼で見上げる女。艶やかな着物や蒼白な額には滴り落ちた血糊が散る。
「ほう…存外に美しい…」
満足げに男が呟く。
年の頃は自分よりも幾らか下に見える。真っ白な顔は恐怖に慄いてはいるが聡明さを感じさせる面差し。なめらかな黒髪は光り輝くかのように黒い。
鷹狩りは期待外れの収穫だったが、ここにきて今日一番の獲物だ。
細い腕を力任せに引き寄せる。
「いやっ!!」
必死の抵抗も男にとっては無いに等しい。
腕を掴んだまま、女を引っ張る。腕に巻かれた小さな数珠がカチリと鳴る。
供の者たちは茫然と見送る。ここで引き留めようものならば自らの命はないに違いない。
「若!!なりません!!」
男の薄衣の裾を必死に掴む政秀。ようやくたどり着いた。
救いの声かと姫君は表情を明らめるが、爺やは若武者に一蹴されて地べたに転げる。
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