第一章 うつけの戯《たわむ》れ

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護衛の者たちは駕籠を護ろうと決死の形相で若武者に挑みかかる。 しかしあまりにも脆い。荒れ狂う風に吹き散らかされる枯葉のごとく、次々に腕が、槍が、頭が舞い散る。 止めるために追いかけてきた者たちが到達する前に、止めなければならなかった物事の大半は済んでしまった。 男は血の滴る太刀を肩に担ぐと、左手で駕籠の引き戸をむしり取る。 中には怯えた(まなこ)で見上げる女。艶やかな着物や蒼白な額には滴り落ちた血糊が散る。 「ほう…存外に美しい…」 満足げに男が呟く。 年の頃は自分よりも幾らか下に見える。真っ白な顔は恐怖に(おのの)いてはいるが聡明さを感じさせる面差(おもざ)し。なめらかな黒髪は光り輝くかのように黒い。 鷹狩りは期待外れの収穫だったが、ここにきて今日一番の獲物だ。 細い腕を力任せに引き寄せる。 「いやっ!!」 必死の抵抗も男にとっては無いに等しい。 腕を掴んだまま、女を引っ張る。腕に巻かれた小さな数珠がカチリと鳴る。 供の者たちは茫然と見送る。ここで引き留めようものならば自らの命はないに違いない。 「若!!なりません!!」 男の薄衣の裾を必死に掴む政秀。ようやくたどり着いた。 救いの声かと姫君は表情を(あか)らめるが、爺やは若武者に一蹴(いっしゅう)されて地べたに転げる。
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