第三章 神降し

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「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおお………」 遠くから、いや吉法師の開いたままの口から低い男の声が響く。 ゆっくりと上半身が起き上がる。 「おぉぉぉぉぉぉおおおお………」 地鳴りのような声は続いている。 「パキッ!ズルッ!」 (かす)かな音を立てて割れた胸が修復されていく。 「………第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)………」 楸が呟く。 皆が視線を注ぐなか、上半身を起こした吉法師は後ろに折れ垂れていた首を戻し前を向く。 口が閉じて声がやむ。 眼が開く。 だらりと垂れていた両手を持ち上げて胸の前で掌を眺める。 吉法師の左の口角が上がる。 「ふっふっふっふっ………」 笑い声だろうか? ゆっくりと吉法師が立ち上がる。 首を回して楸の方を向く。 そして一歩。 寝具の上に踏み出す。 神殿の間の外に立っていた繁丸が駆け寄って楸の前に立つ。 吉法師に刀を突きつける繁丸の顔には焦りを映した強張りが。 吉法師はまた一歩踏み出す。
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