第一章 うつけの戯《たわむ》れ

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強烈な眩暈(めまい)。途切れそうになる意識。 身体はまったく力の通わないただの肉塊となってしまった。 女はさっきまで自分の上で情熱を(たけ)らせていた男の身体、今は重苦しい布団のように覆いかぶさる男の肉塊を引き剥がす。 目を剥いたままの全裸の男の下から這い出すと、乱れた息のまま女は髪飾りを引き抜く。 先の鞘を抜くと小さな刀身。 男の頭の脇に膝立ちになり首元を目掛けて突き立てる。 それを払う男の手。 髪飾りが男の腕に突き刺さる。しかしそれでは致命傷にならない。 『もう動けるの!?』 男の眼玉が真っ直ぐに女を見据える。気を取り戻しかけている。 女は剥ぎ捨てられていた襦袢(じゅばん)を手に取ると、小屋から飛び出す。 [グガガガ!!!] 扉が無理やり引き開けられる音が響く。 寒空の下、若の【それ】が終わるのを遠めで待っていた一行の視線が小屋に注がれる。 中から勢いよく跳びだしてきたのは、赤い襦袢を裸身にひっかけただけの女。 女は一目散に一行の反対側、森のほうを目指して走っていく。 これまでに例のない事態に政秀らは互いの顔を見合わす。 「あ!!」 供の一人が小屋の方を指さす。 人影が小屋の裏手から女の逃げた後を追って駆けだしている。 黒装束に顔まで覆った人影は、(せん)の女よりも一回りは小さな体躯(たいく)。 「若!!」 慌てて駆けだす政秀。供の者たちも続く。 その中に一人。体躯は小さいものの頭抜(ずぬけ)けて俊敏な者が他の者たちを引き離して疾駆する。 一方、女らが駆けこんだ木立から小屋を目掛けて駆ける人影。 足軽のような装束を纏った男が一人。 抜き身の太刀を持っている。
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