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強烈な眩暈。途切れそうになる意識。
身体はまったく力の通わないただの肉塊となってしまった。
女はさっきまで自分の上で情熱を猛らせていた男の身体、今は重苦しい布団のように覆いかぶさる男の肉塊を引き剥がす。
目を剥いたままの全裸の男の下から這い出すと、乱れた息のまま女は髪飾りを引き抜く。
先の鞘を抜くと小さな刀身。
男の頭の脇に膝立ちになり首元を目掛けて突き立てる。
それを払う男の手。
髪飾りが男の腕に突き刺さる。しかしそれでは致命傷にならない。
『もう動けるの!?』
男の眼玉が真っ直ぐに女を見据える。気を取り戻しかけている。
女は剥ぎ捨てられていた襦袢を手に取ると、小屋から飛び出す。
[グガガガ!!!]
扉が無理やり引き開けられる音が響く。
寒空の下、若の【それ】が終わるのを遠めで待っていた一行の視線が小屋に注がれる。
中から勢いよく跳びだしてきたのは、赤い襦袢を裸身にひっかけただけの女。
女は一目散に一行の反対側、森のほうを目指して走っていく。
これまでに例のない事態に政秀らは互いの顔を見合わす。
「あ!!」
供の一人が小屋の方を指さす。
人影が小屋の裏手から女の逃げた後を追って駆けだしている。
黒装束に顔まで覆った人影は、先の女よりも一回りは小さな体躯。
「若!!」
慌てて駆けだす政秀。供の者たちも続く。
その中に一人。体躯は小さいものの頭抜けて俊敏な者が他の者たちを引き離して疾駆する。
一方、女らが駆けこんだ木立から小屋を目掛けて駆ける人影。
足軽のような装束を纏った男が一人。 抜き身の太刀を持っている。
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