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十年後
「で、夜空はこうして今、ここにいる、と」
「そうなのよ。私もすっかりここに馴染んじゃってるでしょ」
作業中の私に、最近出来た友達、矢代真知子に話しかけられた私は、その手を止めて畔に腰掛けた。
「でも、良かったね。念願叶って喫茶店もオープンしたんだし」
「まあね。でも、毎日のコレはキツいわぁ」
そう、ここに来て、結局私は彼に騙されてた事を知った。
もっとも、彼としては、騙す気などなかったのかもしれないけど。
「丁度いいじゃない。メニューの新鮮野菜サラダも、ここで収穫してるんでしょ」
「うん。だから結果オーライ、かな」
今も私は、キャベツの収穫途中だった。
「でも、畑仕事やらないって言って来たんでしょ。それなのになんで」
「だって、しょうがないじゃない」
私は、真知子にその理由を、今初めて言う。
なんて、そんな大袈裟な理由じゃないんだけど。
「ここに嫁いできて、ご両親から最初に貰ったプレゼントが、長靴だったんだから」
そう言って私が笑うと、真知子も一緒に笑ってくれた。
途中、どんな紆余曲折があっても、こうして笑っていられる今が幸せならいっか、と、真知子の笑顔を見ながら、私はそんな風に思った。
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