クロス・パール

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 ガブリエル様の自室で二人きり、政治について勉強なさっている時に彼のしなやかな指先が私の手の甲に重なった。 「アラン…」 皺のないきめ細やかな肌が、熱と確かな意思を持って、私の手を撫でる。 私の炎がゆらりと揺れた。本当はその手を払いのけなければならないのに、あまりの心地よさに為されるがまま手は動けない。 「…まだ休憩には早いですよ?ガブリエル様」 辛うじて口先だけは冷静さを保った。 しかし、上っ面の仮面を彼は許さなかった。 「そうじゃない…アラン、お願いがあるんだ」 切羽詰まった甘い声音が私の耳を犯す。 そばかすも低い鼻も変わらない、少し器量の良くない、けれど愛らしい顔が、不安と期待に満ちた何とも言えない表情で私にすがる。 ぎゅっと手を強く握られた。 「…僕を、っ」 「ダメですよ、ガブリエル様」 この時の自分を、私は褒めてやりたい。 彼のなんとも悩ましい姿に、私の炎が一気に黒く燃えたぎったが、寸でのところで、それを檻の中に閉じ込められたからだ。 握られていない右手の人差し指で、ガブリエル様の柔らかくベビーのような唇を閉ざした。 「それ以上言ってはなりません。それを聞いたら、私はこのお屋敷から出ていかなくてはなりません。ガブリエル様、よくお考え下さい。それを言って、私と離れるのか。それとも、叶えられずとも、私を一生傍に置いて下さるのか」 半開きの唇を優しく、そっと擽るように撫で、私の熱を彼に伝えた。それが、私には精一杯の告白であった。 「もしも、貴方のお傍に置いて下さるというならば、私は命尽きるまで貴方から離れません。貴方のために、この身を全て捧げます」 卑怯で残酷な選択を、私は幼い愛しい人へ告げた。 彼の瞳は戸惑いに揺れ、今にも泣き出しそうだった。 とても可哀想で、 ーーーそして、可愛らしかった。 許されるならば、そのまま頭から足の先まで、私の腹の中へ喰らいつくしてしまいたかった。 ポロリ、とダイヤのような涙を1つ溢し、彼は「傍にいて…」と頼りなく呟いた。
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