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どうにか9ヶ月目になったある日、4日の昏睡状態から意識を取り戻し、やけにはっきりとしたお顔をガブリエル様はしていた。
「今日はなんだがお顔の色がよろしいですね」
「…ああ…。頭がすっきりしてるんだ」
「そうですか。それはよろしゅうございます」
「…アラン、お願いがあるんだ」
「はい、何でしょう?」
「お前のショコラが飲みたい…。お前が入れたあの滑らかなショコラが、一番おいしい…」
「ありがとうございます、ガブリエル様。貴方のお口に合うようにと日々、勉強した甲斐がありました」
まるで、元気な時のようなやり取りに、私は内心とても安心していた。
サイドボードの上に、ガブリエル様のご子息が摘んできた花を瓶に差しながら、私は何気なく聞いた。
「他にも何かございますか?」
「ああ。アラン…こちらへ来てくれ…」
ガブリエル様のお顔の近くへ移動する。そして、管の刺さったままの痩せこけた手で私の左手を掴んだ。
弱々しいその手に、自然と私も手を重ねる。
「…セレスティーヌとラファエルを頼む」
奥方とご子息の名前だ。
真剣な声音だった。何か冗談を言うこともできず、ただ私も真摯な眼差しでガブリエル様を見つめた。
「……もちろんです…。けれど、まだまだ分からないですよ?こんなに元気じゃありませんか。案外、このまま良くなられるんではありませんか?」
「………、もう一つ、あるんだ…」
私の言葉には答えず、ただ穏やかな笑みを浮かべて、ガブリエル様は言葉を続けられた。
「何ですか?」
優しく、まるで壊れ物でも触るかのように、ガブリエル様の手を撫でながら、私は続きの言葉を促した。
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