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それから2日後、ガブリエル様の意識は再び闇の中へ落ちていった。
2日、3日、4日と経ち、そうして、二度と戻ることはなく、7日目に彼の心臓は動くのを止めた。
「ガヴィっ…、ああ、私のガヴィ、どうしてこんな…っっ」
「ひっく、パパぁ…っパパ!」
「ガブリエル様…こんなに早く…」
奥方やご子息だけでなく、召使いなど屋敷中が悲しみにくれた。優しく、公平で、聡明な村の王は、誰からも愛されていたからだ。
いつもは陽が当たり明るい屋敷が、まるで太陽の隠れた雨の日のように、じめじめと湿って暗い雰囲気を漂わせていた。
皆が涙を流していたが、ただ一人、私は涙を流さなかった。
執事長という責任のある立場として涙を流すのをこらえているのだと、周りの者はそう理解した。なぜなら、屋敷の中で一番、私がガブリエル様と共に過ごしてきたのだから。そして、私の心情を心配したり、立派だと言ったりしていた。
しかし、私の胸中には、もっと複雑なものがあった。
「奥様、ラファエル様。ガブリエル様からのご遺言がございます」
まだ亡くなったばかりのガブリエル様のベッドの周りで悲しんでいる奥方達へ向けて、私は託されていた手紙を取り出した。
「『私の愛しい妻セレスティーヌ。私の天使ラファエル。そして、私の家族である皆。私が先に旅立つことを許してくれ。そして、最後の願いだ。私のために泣かないでおくれ。愛しい者の涙は辛い。どうか笑顔で居て欲しい。』」
自分よりも他者のことを考える、ガブリエル様らしい言葉だ。皆、生前のガブリエル様を思い出して、涙を零した。
私は冷静に、静かに言葉を繋げる。
「『それと、私はきっとひどく痩せこけた姿になっているだろう。そんな姿を皆に見られ続けるのは恥ずかしい。アランに全て頼んでおいたから、どうか皆はいつも通り過ごしておくれ』。…ガブリエル様は、最後に意識をなくされる前に、私へ仰りました。病人と一目で分かるこの姿を皆に焼き付けたくないと。亡くなった後のことは全て私が行います。奥様、ラファエル様。どうぞ、この場は私にお任せ下さい。そして、今のお姿ではなく、ガブリエル様の笑顔を思い出してあげて下さいませ」
止まらない涙をハンカチーフで拭きながら、奥様は弱々しくも頷き、ラファエル様を連れたって部屋を出て行った。私以外の召使い達にも奥様達の傍にいるよう伝え、部屋には私と亡くなったガブリエル様だけになった。
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