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群青くんと漆黒くん
櫻が散るように、漆黒が飛び降りて死んだという。
群青がその知らせを聞いたのは、四月四日の早朝であった。鶴岡八幡宮の参詣道である段葛では例年どおり、櫻が鈴でも転がしているかのように可愛らしく咲いた。数年前にあった改修工事によって、両脇に植林されていた櫻樹は若く細いものになってしまったが、咲けばいっぱしに胸を張って人間たちを迎え入れる。
櫻開花にともない観光客でにぎわうそこも、早朝の六時ともなれば人もまばらである。その時間を狙い、群青は毎日散歩をしている。散歩路は長年変こうなく、佐助番地にある築二十年のアパートから段葛まで行き、二の鳥居をくぐる。そして、終着である三の鳥居を折り返し地点として一時間の散歩だ。
段葛には鎌倉の四季が閉じこめられていると、群青は思う。その日も、水で溶かしていない絵の具のような青空に、薄桃色の花弁が舞っているのを見上げて、ぼんやりと春を儚んだ。
「漆黒さんが飛び降りて死んだ。早く帰ってきて」
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