14.平穏と疑念

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「あ、やだ!やっちゃん、待ってよ!」 「アンタ、人待たせてるんだから、ちょっとは急ぎなさい」 「分かってるー!」 葉月は必死に足を動かし、何とか正希に引き離されずに図書館までたどり着いた。 徐々に上がっていく気温も、木々に囲まれている図書館では少しだけ落ち着いている。 ちょうど木陰になっていた駐輪場に、二人並んで自転車を停めた。 早足で正面入口まで向かうと、木村がスマホを見ながら階段の手すりに寄りかかっている。 「おはよう、木村くん。ごめんなさい、遅刻しちゃって――」 葉月が声をかけると、木村は顔を上げて微笑んだ。 「はよ、橋本、矢島。そんなに待ってねぇから気にすんな」 木村は正希と挨拶を交わすと、すぐに入口の自動ドアをくぐり、二人もそれに続いた。 スゥっと、冷房の空気が体に入り込み、葉月は息を吐く。 急いで自転車を漕いで来た身には、ちょうど良かった。 図書館二階の学習室は常に開放されてはいるが、夏休みなどの長期休みになると、朝から学生がひしめいている。 せめて、暑い時くらい涼しい環境で勉強したいという心理なのだろう、夏が一番混んでいる。ここ数年の異常気象ともいえる気温なら、仕方ないとも思うが。 「えー……と、ああ、あそこの奥が空いてるっぽいな」 木村が部屋に入ってひとしきり眺め、空いている席を探し、指をさした。 中には暁高校の生徒もいたらしく、葉月は少しだけ視線を感じた気がしたが、それでも学校よりは安心できた。 三人で席に着き、さっそく苦手分野に手をつける。今のうちに、分からない箇所を教えてもらわないとなのだ。 葉月が途中で手を止めて悩んでいると、木村が向かいからアドバイスをしてくれたり、正希が最初から説明をしてくれたりと、至れり尽くせりだ。 それに何とか応えねばと、葉月はとにかく、できる限りのスピードで手を進めた。 「そういや、橋本、昼飯どうする?」 午前中、今まで無かったレベルで集中して宿題を片づけていた葉月は、ぐったりと机に顔を伏せていた。 消耗具合が半端ない。 「……やっちゃんとコンビニ行って何か買おうかと……」 かろうじて顔を上げて木村の質問に答える。 元々、木村とは午前中の約束で、帰りにご飯を買って、正希の家で食べるつもりだった。
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