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葉月は少々たじろぎ、そして信を見上げた。
信はそれに気づき微笑む。
それだけで、葉月の胸はドクドクと鼓動を早める。
――……どうして……。
……何であたしは……。
「じゃあ、行こうか」
葉月は、信がドアを開けて待っているのに気づき、慌ててカバンを持ち直すと頭を下げてドアから出た。
優也のアパートは二階建て三部屋ずつ。その二階、一番奥の部屋だ。
葉月の後を信はゆっくりとついていく。
「あの……すみません……。いろいろと……」
振り返り、葉月はとりあえず謝る。
まさか、こんな状況になるとは思ってもみなかったのだ。
だが、信は少しだけ悲しそうに微笑む。
「――大丈夫だから……。葉月ちゃんが気にする事じゃないよ」
その言葉が本心でないのは、さすがに葉月でも気がついた。
何と返していいのか分からないが、信は少しだけ足を早めて、葉月の隣に来た。
距離の近さに葉月は動揺し、何か話題を、と探す。
ああ、そうだ。一番があった。
「あ、あの……。デ、デビュー、おめでとうございます。……すごいですね……」
ようやく絞り出した言葉はあまりにもありきたりで、葉月は内心苦る。
もう、どうして、あたしって……!
もっと上手い言葉があるだろうに……。
だが、信はその言葉に嬉しそうに笑った。
……あ、カワイイ。
そう思った途端に目が合い、葉月は慌てて視線をそらした。
ヤバい!声に出てた!?
すぐに両手を口に当てるが、信は気にした風もなく、話し出した。
「あのね、オレがここまで来られたのは、葉月ちゃんのおかげなんだ」
「……え……?」
思わぬ言葉に、葉月は立ち止まる。
信も一緒に足を止め、葉月を真正面から見た。
「……オレ、葉月ちゃんのおかげで、頑張ってこられた。……だから、本当は今日会えたら、お礼を言いたかったんだ」
「……でも……あたし、何にも覚えてないんです……」
「うん。……葉月ちゃんは何もしていないから。……ただ、オレの中で支えになっていたから――……」
そこまで言うと、信は恥ずかしそうに目をそらした。
「ごめん、混乱させて。……優也には釘さされてたんだけど、でもやっぱり、会ったらお礼言いたくなって」
……一体、どういう事なのか。
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