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「葉月ちゃん、本日二回目。あと一回で授業は終了でーす」
「え!あ!ごめんなさい!!」
葉月の現実逃避癖は様々なところで現れる。
それは勉強中でも全く関係は無く。
そこで、優也は葉月が三回現実逃避したら、その日の授業を強制終了するというルールを作った。
おかげで、かなりのプレッシャーを感じ、葉月が強制終了を食らったのは、この二年間で十回はいかずに済んだ。
「じゃあ、時間も時間だし、あとはこの一問終わったら、今日は終了ってコトで」
「……コレ……?」
優也が指さしたのは、そのページの最終問題。難易度を見れば、最高レベルのものだ。
「そうだね。あと十五分でどう?」
「ええっ!?無理無理!!」
今やっているのは、葉月の天敵、数学なのだ。
最初の問題でかなりつまづいているのに、それは無いだろう。
少々恨みがましそうに葉月が優也を見上げると、優也はにこやかに笑い返した。
「……もう……!できなくても文句言わないでよ!?」
やさぐれつつも、葉月はシャープペンを握り、丸々十五分間、問題と戦った。
――結果としては、完全敗北ではあったが。
「ごめんね、葉月ちゃん。正直無理だとは思ったんだけどね」
「じゃあ、何で……」
「んー、最近ちょっと身が入っていない感じだったから、ちょっとした嫌がらせ?」
「……優也さん……!」
実際、優也の言う通りなのだが、それでもこの仕打ちは無いだろう。
葉月は責めるように優也を見るが、当の本人はどこか楽しそうだ。
それを不思議に思い、尋ねる。
「……優也さん、何かあるの……?」
その質問に、優也はにこやかにうなづいた。
「まあね。もうすぐウチに、友達が来るんだよ」
「え?」
「あ、気にしないで。ていうか、葉月ちゃんも一緒にどう?」
「は?」
突然の展開に、葉月の頭は停止する。
「いや、あのっ……あたし帰るから……」
言いかけたところで、部屋のチャイムが二回、短い間隔で鳴り響いた。
固まる葉月と対照的に、優也は足取りも軽く、玄関へ向かう。
「ゆ……優也さん!帰る!帰るからっ!!」
慌てて葉月は荷物を抱えると、それに続いた。
そしてドアを開けた優也の脇をすり抜けて、外に出ようとした瞬間、葉月は何かにぶつかった。
「きゃ……」
「うわっ!」
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