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葉月は目を丸くして隣にいる優也を見上げた。
「ああ、葉月ちゃんには言ってなかったね。オレはサポートメンバー。バンドで表に立つのはコイツらだけ」
「でも、お前だってちゃんと歌詞で参加してるだろ」
ボソリと低い声が聞こえ、そちらを見ると、全体的に少々丸い印象の男性が、何の表情も無くこちらを見ていた。
このメンバーの中では少々地味な印象。黒の角刈りに近い短さの髪、ロゴ入りの白Tシャツの上にチェックのシャツを羽織っている。下はストレートの青色ジーンズ。
葉月の視線が再び彼の顔に向かうと、その細い目は完全に笑ってはいなかった。
一瞬、気に障る事でもしでかしたかと思ったが、優也は平然としているので、おそらく彼はこれが通常仕様なのだろう。
「初めまして。ドラム担当、島岡明(しまおか あきら)。この二人はウチの中でテンションが常に高すぎるから、ヤバいと思ったら避難して」
そう言って美沙と秀之を見やる。
その表情は、やはり変わらない。
本気なのか冗談なのか、葉月には判別がつかず、苦笑いでうなづいた。
「おい、明!初対面の葉月ちゃんに、何刷り込んでやがる!」
「初対面だから注意してるんだろ」
秀之が笑いながら突っ込むが、明は淡々と返すだけだ。
だが、葉月は会話の内容が少々不安になる。
……ケンカしてる訳じゃないよね……?
「あ、明はコレが普通だから。初対面の人は大抵この無表情にビビるけど、俺たち全員承知の上でこのやり取りだから心配しないで良いよ」
「は……はい」
優也のフォローでようやく安心する。
何せ初対面×四人なのだ。それぞれ個性が強すぎる気がして、葉月は少々たじろぐ。
そんな中、ふと視線を感じ、葉月はそちらを見やる。
すると、先程ぶつかった、信、と呼ばれた彼が葉月を見つめていた。
そう気がついた瞬間、葉月の胸は激しく音を立てた。
――……え?何??
自分の意志とは関係無いところで、葉月の胸は鼓動を早める。
慌てて胸を抑えるが、彼が自分を見ているという事実で、症状は治まらなかった。
すると、信は一歩前に出ると、葉月に声をかけた。
「――……久しぶりだね、葉月ちゃん」
「え……?」
突然の挨拶に、葉月の思考回路が停止する事、約三十秒。
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