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「バスの時間がすぐだから俺は行く。ついてこなくていいから」
「それはダメです!」
少女が叫ぶが、通り過ぎていく人々は誰一人振り返ることはない。
逆に立ち止まっている俺に視線が集まった。
バス停に向けて歩き始める。
「待ってくださいよ」
聞こえないふりに徹し、足を止めない。
その後ろを雛鳥のようについてくる。
「お兄さんがいないと何も持てないんですよ!」
「いや、食べなくても大丈夫なんだろ?」
「そうですけど……」
少女は急に黙り込んで、立ち止まってしまった。
数歩進んで振り返る。
俯いたまま、両拳を握りしめていた。
子供のように泣き出してしまいそう。
言い過ぎたかな。
考えている間にもバスの時間が近づいていく。
「分かった。あとから付き合ってやるから」
「ほんとですか! 絶対ですよ、約束ですよ!」
先程の様子から打って変わって、弾ける笑顔になっていた。
してやられた気がする。
これだから女ってやつは……
少女は俺を追い越して先に行ってしまった。
「そういえば名前は?」
「そうですね……夏なので向日葵って呼んでください」
試しに名前を呼ぶと、笑顔で返事をしてくれた。
嬉しそうな様子を見ているとついてくるなと言えなくなった。
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