第4章:ユリ【臥薪嘗胆】

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あれは確か、私が5歳になったばかりの時。 「毎日これをやりなさい」 威圧的な口調で突然渡されたのは、ひらがなとカタカナのワークブック。 「ただ書けるだけじゃ、ダメ。良い? お手本の通りに、きれいな文字を書くの。うちは母子家庭なんだから、ちゃんとしてないと周りからバカにされるのよ」 《うちは母子家庭なんだから》 お母さんの口から出るこのセリフを一体、何回聞いただろう。 もう、耳タコだった。 だけど、幼い私に拒否権なんてない。 小学校に入るまでの約2年間、お母さんが仕事に行っている間にやることは遊ぶことじゃなくて、ひたすら文字の書き取りと勉強だけだった。 あとになって気付いたけど、彼女はとてもプライドが高くて、人からバカにされることを極端に嫌う性格だったんだ。
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