第4章:ユリ【臥薪嘗胆】

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「鮫島とは逆の父子家庭だけどね」 「ちょっと待って……。なんでうちが、母子家庭って知ってるの?」 「悪いとは思ったんだけど……。入学式の時、新入生代表の挨拶をしているキミの姿を見て、何となく僕と似た雰囲気を感じたから担任に聞いたんだ」 なんで勝手に人の家庭のこと聞いてんのよ。 正直、あまり母子家庭であることは同級生に知られたくなかった。 大抵、どうしてそうなったのか、理由を聞かれるから。 だけど、彼が投げかけた質問は少し違っていた。 「鮫島はさ、お父さんの顔って覚えてる?」 「ううん、覚えてない……。両親が離婚したのは、私が1歳の頃だったから」 「そっか、一緒だね。僕も母親の顔は知らないんだ」 さっきまでの鋭い視線がウソのように柔らかくなり、彼は苦く笑った。 《似た環境で育った親近感》だったのかもしれない。 ただ、あまり異性に対して良い印象を持ったことがない私にとって、その笑顔は特別だった。
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