柴谷君の、妄想暴走・初詣

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「ちーっす!」 「おじさんおばさん、明けましておめでとうございます! 潤くん、天神様行くよ!」 朝っぱらからのお誘いは、悪友門田兄妹。 「俺、近くの神社でいい」 元旦の天神様なんて、受験祈願でごった返すに決まってる。 正月から人込みで揉みくちゃとか、愚の骨頂! 「妄想力が少しは学力に変わるようにお願いしたら?」 門田の妹ふく子の一言で、「行け!」と母ちゃんから蹴り出され、 渋々三人で初詣だ。 穏やかに晴れた元日の天神様。案の定、人の波、波、波。まともに歩けもしない。 そんな境内で、俺のスコープアイは瞬時に1点を捉えた! ――杉先生だ!! わが高のマドンナ、音楽の杉先生が、 上品かつ質素な柄の和服姿で、今、目の前にズームアップ……!! これはまさしく、神のお導き!! 初詣で会えるたぁ、 こいつぁ春から縁起がいいやね♪ 先生が、参道を外れ梅苑に入っていく。 あ、おみくじを梅の枝に結び付けるんだな! 背伸びした襟元。結い上げたうなじにかかる後れ毛の、艶めかしさ……。 枝へと伸ばす着物の袖口から、露になった両腕の生めかしさ……。 「あ、杉ちゃんじゃーん♪」 ええい、小妄想しかできん小者門田め、これから展開する俺の望遠大妄想を邪魔すんな!! 「ホントだ! あ、家族連れだからお兄ちゃん達、邪魔しちゃダメよ!」 なぬ? アップし過ぎて目に入らなかった! だだだだ誰だ、隣のあのヘニャけた男は!!!? そそそそして、ヘニャ男に抱かれたあのよよよよ幼児は……ま、まさか……!? 「あれ柴谷お前、知らんかった? 日本史の授業で話に出たじゃん、杉ちゃんは世が世ならお殿様の奥方って」 ――なんですと!? お殿様の奥方!? あのようなお世継ぎまでこしらえたということは、 あのヘニャ殿様と、 あーんなことや、 こーーんなことも、 なされていると仰せですか!? いや違う!! 庶民の娘を見初めた好色息子が、 無理矢理手を出したに決まっている!! 『娘。帯が邪魔なようだ。ほどいてやろう』 帯に手を掛け、端を引っ張る悪代官。 『あ~れ~お代官さま、ゴムタイな~』 しゅるしゅるる~。 くるくるる~。 しゅるしゅるる~。 くるくるる~。 「……お兄ちゃん、潤くん何してるか解る?」 「人込みの中で独楽のように高速回転……さすがの俺にも今回は解らん」 「置いて帰ろう」 「賛成」 しゅるしゅるる~。 くるくるる~。 Fin.
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