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職員通用口で、どしゃ降りの雨に立ち尽くす杉先生。
その、匂い立つような憂い顔を見つめ、
俺は妄想で垂れたヨダレを拭いながら、悪友門田に哀願した。
「頼む門田、男・柴谷潤の一生のお願い!!
傘貸して」
「馬鹿こけ、お前の一生のお願いは何回あんだよ?
こないだ翠葉みおりちゃんのミュージッククリップ貸した時も言ってたじゃん」
「みおりちゃんはみおりちゃん
杉先生との相合い傘は相合い傘」
「俺様の傘は俺のもの!!
相合い傘も俺のもの♪
キミは一人で濡れて帰りたまえ、じゃーなー」
「ちょ、待てぃ門田!」
俺達は、門田の傘を挟んで、ぎろりとにらみ合った。
「あ、お兄ちゃん、ちょうど良かった!」
おかっぱ頭が、緊迫した俺達の間に、にゅっ、と割って入った。
「ふく子、俺達は今、男のプライドを懸けた闘いの真っ最中だ、退いてろ」
門田が重々しく言い捨てる。
門田のひとつ下の妹、ふく子は、とたんにぷーっ、と膨れる。
『ふく子』のアダ名の由来だ。
「何を懸けてんのよ、傘つかんで睨み合って」
「関係ないだろ、お前には」
「関係あるわよ、私、傘忘れてきたから、お兄ちゃんの傘で一緒に帰ろうと思って探してたんだもん」
「何が哀しゅーて妹と相合い傘しなきゃならんのだ。
お前は濡れて帰れ。この傘は憧れの杉ちゃん専用の相合い傘なのだ!!」
「……ふうん……」
おいおい、妹とは言え、女の子にさすがにそれはマズくね?
ふく子が、門田と俺とを見つめて、ゆっくりと笑顔を作った。
……こっ、……怖い!!
一瞬硬直した俺達を目の端に流して、ふく子はあろうことか、杉先生に向かって叫んだ。
「杉先生ーっ!
私と相合い傘して駅まで行きませんか~
お兄ちゃんが傘貸してくれるって~♪」
俺達が、そのままどしゃ降りの中、二人でどつき合いながら駅まで走ったのは言うまでもない。
Fin.
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