第1章 魔法大全

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 ナナキは、最初は早足で街を歩いていた。しかしそれも何時しか、その歩み  に力強さがなくなり、ただボンヤリと俯きがちに石畳の上を歩き始め、只々  無意識に人の多い通りを避けて小道へと入っていく。    陽は昇り、そして没み行く時になっても、その歩みは止まることはなかっ  た。しかしそれも次第に辺りが暗くなり始めて、足元の自分の影が薄くな  り始めた頃には、ようやく意識が浮上を始めた。  視線を足元から周囲へと向ける。 「ここは…?」  意識が戻ったナナキは、気がついたら見たこともない路地裏に立っていた。  彼女の身体が小さく震える。春になったばかりとは言え、陽が沈めばまだ  まだ寒い。    それに彼女が震えたのは何も気温のせいばかりではない。 「流石にこんな時間に、人気のない場所は不味いよね?」  不安に駆られたナナキは、少しでも人通りの多そうな大通りを目指して歩く  ――しかし建物を縫うようにして存在する路地に、彼女は更に路地の奥へと 迷いこんでいった。    辺りは完全に暗くなり、ナナキの不安は否が応でも増して次第に歩くスピー  ドが増していった。そんな中、ようやくというべきか一軒の明かりの灯った  建物が目に入った。 「……良かった。誰かいる」  これで学園までの道が聞けると彼女は、ふと建物の看板に目を向ける。そこ  には魔導書を扱う店が掲げる看板が立っていた。 「こんな所に?」  少しだけお店の前で立ち止まる。今は魔導書なんて見たくもなかった。しか  し今の状況はそんなことも言っていられない。道に迷っているのだ。ナナキ  は、意を決してお店の扉をそっと押し開ける。    カラン、カランと鳴子が申し訳程度に鳴る。彼女は一度その鳴子を見上げ  て、薄暗い店内に目を向ける。そこには狭い店内ながらも、所狭しと言わ  んばかりに本棚には本が収まっていた。 「うそ……これ全部……魔導書なの?」  一流の大型の店でもこれだけの量は見たことがない。試しに一冊、本棚から  抜き出して確認してみる。魔力を感じる――やはり魔導書で間違いない。溜  め息を零しながら、人が一人通れる程度の通路を奥へと向かって進む。  すると一番奥にはカウンターがあって、そこに厚手のフードを深く被った店  主らしき人物が立ってナナキを見ていた。ナナキは思わず息を呑む。
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