潤朱色《うるみしゅいろ》

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食事の前に馴染みの呉服屋に付き合って、と母に言われておとなしくお供を承諾したのだけれど、さすがに飽きる。 奥の座敷で反物を身体に当てるたびに、「(わたる)さん、どう?」と言われるのにいちいち「お似合いです」と答えるのにも飽きて、俺は店の中を少し見てみることにした。 母の相手をしてくれている店主の娘だという女性が、俺の見学に付き添ってくれた。 まず、ウィンドウに飾られた大振り袖を眺めてみる。 やはり、日本の色合いは美しい。こんなに繊細(せんさい)で細やかな配色は、外国ではなかなか見られない。 ヴェネチアングラスの、光を受けて(きら)めくさまも確かに美しいけれど、日本の芸術のこの精緻(せいち)さはどうだ。
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