◇ Kai & Hayato ◇

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◇ Kai & Hayato ◇

 部屋のドアが閉まるなり隼人は腕を掴まれ、強引に寝室へと引きずり込まれた。  普段よりも手荒なそれに、嗜めるような声を出しても甲斐は無言のままだ。そのまま寝台に押し倒され、シャツの裾を捲り上げられる。ようやく、甲斐の目的が何であるのかを悟って、隼人はそっと手を重ねた。 「っ…お待ちください」 「黙れ」  船の中で蹴られた場所が、痣になっているだろう事は隼人自身も予想はしていた。骨にまで異常を及ぼすようなものでなかったから放置していただけである。白い肌にできた痣を撫でられて、隼人は一瞬だけ息を詰めた。 「痛くないか?」 「大丈夫です」  険しい表情のまま溜息を吐く甲斐に、隼人は委縮する。『脱げ』と、そう短く告げられてボタンへと手を掛ければ、甲斐はすぐ隣に腰を下ろした。 「申し訳ありません…」 「あんな無茶をしなければ、怪我などせずに済んだだろ」 「届くかと…思ったのですが…」 「そういう問題じゃない。例え届いたとしてもだ、辰巳が来る前に刺されでもしたらどうする」 「それは…」 「少しは場所を考えろ」  甲斐の言っている事は尤もで、隼人には項垂れる以外に術がない。上着を脱ぎ去り、ボタンを外し終わったシャツを開けば、隼人の目の前に甲斐が膝をついた。 「いけません甲斐ッ!」 「うるさい。大人しくしてろ」  悲鳴にも似た隼人の声が部屋に響く。だが、甲斐は僅かに眉を顰め、あっさりと隼人の制止を無視した。  隼人にとって自分自身がどんな存在であるかを、甲斐はしっかりと理解している。だからこそ膝を折るという甲斐の行為は、紛れもない隼人への”罰”だった。隼人の世界は、いつだって甲斐を中心に回っている。  案の定、隼人の口からは動揺に震える声が零れ落ちた。 「ですが…そんな…っ」 「黙れと言ってる」 「っ……」  じろりと睨まれて、隼人は渋々口を閉ざした。甲斐に膝をつかせているのは他でもない自分だと思えば、隼人はこれ以上ないほど己のとった行動の浅はかさを後悔する。他に異常がないかを確かめるように痣の周りに軽く触れる甲斐の手が、ひんやりと冷たかった。 「大丈夫ですから…甲斐…」 「少しは反省したか?」 「はい。ですからお願いです甲斐、膝を折るなどという真似は…」 「まったく、お前は心臓に悪い」  呆れたように首を振った甲斐が立ち上がり、隼人の頬に触れる。頬を辿る指先が微かに震えていて、隼人はそっと手を重ねた。 「心配させるなよ」 「はい…二度とあのような事は致しません」  もはや顔面蒼白で頷く隼人に、甲斐は小さな笑いを零す。隣に腰を下ろすと、隼人の首を抱えて寝台の上に倒れ込んだ。 「っ…甲斐」 「はぁ…、さすがに今日は疲れたな…」 「そうですね…。私も、ご迷惑をお掛けしてしまいましたし…」 「そう思うなら少しは俺を労えよ、アキ?」  揶揄うように言いながら、甲斐が隼人の形の良い耳を擽るように指先で弄る。”アキ”と、そう呼ばれて堪らず縋りつく隼人の口から吐息が漏れた。 「甲斐…っ」  口付けようとする隼人の口許を、甲斐の手がパシリと覆う。 「誰がキスしろって言った?」 「駄目ですか…?」 「我慢させたら、少しは反省できるだろ?」 「っ……酷いです、甲斐…」  口許の手をおずおずと下ろしながら言う隼人は、今にも泣きそうなほど瞳を潤ませる。 「甲斐…、お願いします…貴方に触れたい…っ」 「上手く強請れたらな」  甲斐の手で軽く躰を押しのけられる。ただそれだけで隼人は何をすべきか理解した。  上気した頬を更に赤く染め上げ、隼人が自ら服を脱いでいく。甲斐に見られながら素肌を曝していくその行為は、それだけで隼人の躰を熱くするものだ。 「甲斐…っ、貴方が欲しい…」  隼人は痣を隠すように寝台の上に這い、腰を高く上げたまま後孔へと指を伸ばす。綺麗に手入れをされた指で自らの蕾をゆるゆると撫でていれば、あっという間に隼人の雄芯は先端に涎を浮かべた。 「ぁっ…あっ、ここに…貴方をください…っ」  今にも寝台の上に滴り落ちそうな雫を掬い上げ、隼人は白い指先で自らの秘部を濡らしていく。甲斐に触れて欲しくて堪らない筈なのに、焦らされる事で感じてしまう矛盾を抱え、隼人の息は上がっていった。  堪えるように隼人が頭を振る度に、艶やかな茶色の髪がぱさぱさと敷布を叩く。白い双丘の中心にある蕾は、既に三本の指を飲み込んでいた。 「甲斐…、お願いします…甲斐っ、許してください…。もう二度と…貴方のものを傷付けないと…誓いますから…っ」 「いい子だ、アキ。おいで」  優しい声に名を呼ばれ、隼人は甲斐にしがみ付いた。ようやく触れる事を許されて唇を重ねる。大切そうに、愛おしそうに、隼人は甲斐の頬を両手で挟み込んだ。 「甲斐…、愛しています…」 「知ってる」 「んっ…ぁ、甲斐…っ、甲斐…」  口付けの合間、必死に名を呼ぶ隼人に甲斐が小さく笑う。宥めるように優しく背中を撫でて、甲斐は隼人の耳元に囁いた。 「俺も愛してるよ、アキ。だからお前が傷付くのは嫌だ」 「はい」 「お前が傷付けられていい相手は俺だけ。分かったか?」 「はい…っ」  おいで…と、そう小さく囁いた甲斐の腰を隼人が跨ぐ。欲しくて堪らなかった熱を迎え入れて、隼人の表情は恍惚に歪んだ。均整のとれた躰がしなやかに撓る。 「はっ…ぁっ、気持ち良いです…甲斐ッ」  隼人が飲み込む下肢以外、甲斐はスーツをその身に纏ったままだった。僅かにたくし上げた上着を、隼人は白い指先できゅっと握る。ひやりとした指先が、腹部に触れた。  元が色白なおかげで目立つ痣の上を、甲斐の指先が僅かに押し込む。思わず息を詰める隼人に、甲斐はクスリと笑いを零した。 「痛いか?」 「ぁっ、あぁ…っ、もっと…強くっ」 「くくっ、余計に酷くなるから駄目だ。代わりにこっちで我慢しろ」  すぃと滑るように動いた指先が、胸の小さな突起を掠める。ただ触れただけで離れた刺激でもちろん足りる筈もなく、隼人は艶めかしく肢体を震わせた。 「あぁ…ッ! 甲斐っ、自分で…弄ってもよろしいですかっ」 「はしたない奴だな、アキ?」 「ごめんなさい…。っ…でも、気持ち良い…っ」  両手で左右の飾りを摘み上げる隼人の後孔が、つられるように収縮して甲斐の雄芯を食んだ。隼人の陶器のような白い肌が、あっという間に仄紅く染まる。 「ああっ、ア、甲斐…ッ、んっ…イイッ、も…イきた…ぃっ、イかせてください甲斐ッ」  悲鳴にも似た声で懇願する隼人の雄芯へと、甲斐の指先がするりと伸びた。爪の先まで綺麗に整えられた長い指が、付け根から先端に向かって無造作に隼人の屹立を擦り上げる。 「はっあッ、あぁあああッ! 甲斐っ、イッ…く、―――…ッッ!!」  隼人の白濁が、自身の陶器のような肌と甲斐のスーツの上にぱたぱたと散る。快感に薄っすら微笑んでもいるよいうに見える隼人に甲斐が口付けた。 「綺麗だ、アキ」 「甲斐……、ぁっ、嬉しぃ…です」  うっとりと微笑み、甲斐の首へと腕を回して隼人は抱きついた。甲斐の黒髪を、滑り込んだ白い指先がくしゃりと握り込む。自分よりも小さな甲斐の躰を隼人は大切なものを守るように抱え込んだ。 「甲斐…、ずっと…私だけのご主人様でいてください…」 「ああ」  隼人の美しい背中を労わるように軽く叩き、甲斐は静かに微笑んだ。 「愛してるよ、隼人…」  胸の中で呟かれた小さな言葉は、隼人の耳にもしっかりと届いた。
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