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部屋の中には従弟の胸に顔を埋めて震えている、豪奢な洋服を着た女性の背中が見える。 早矢兎には既に分かっていた、矢鱈と自分の許嫁に難癖付けていた従弟が彼女を気に入っていた事を。美しく着飾ることが好きな南欧子さんが親同士の勝手に決めた自分との結婚に乗り気でなかった事を。 二人が抱き合っている。自分に降りかかった彼是(あれこれ)を説明するのにはそれだけで十分だった。 愛情を感じたことのない相手とはいえ自分がこの様な目に合わされるのは余りにも理不尽だと感じる程度には腹が立っていた。 「もう…もう結構です。家に戻って婚約の事は白紙に戻して貰います。私を帰して下さい」 「仕返しはしないのですか?勿体ないなぁ」 「貴方は何故関係のない他人の家の事に、いや私の事にここ迄首を突っ込むのですか?」 「おや随分なお言葉ですね。私は只自分の気に入ったものをぞんざいに扱われた事に腹を立てているのです」 「気に入ったもの……」 虎彦は腕に力を入れて身体を密着させ、首筋に唇を寄せながら甘い息で囁いた。 「貴方は格別です。内にこれ程熱い精を宿している人に発汗の処方をするとは、さぞかしお身体が苦しかったことでしょう」 話続け乍ら虎彦は左手で早矢兎を保定した儘右手を身体の中心線に沿って下ろしてゆく。 「何を言って…やめて下さい。虎彦さん」 手の動きに焦って喉が詰まり裏声になりつつも、その行く先への期待から下腹部が熱く疼き始める。掌がズボンの前を掠めた時には既にそこは硬くなりかけており喉元に見える煽情的な微笑みが早矢兎の動物としての欲求を掻き立ててゆく。 「貴方はあの許嫁どころかこれまで女性に心惹かれることはなかった。誰とも共有したことのない貴方の()(けつ)(すい)が私を満たして力を与えて呉れるのです」
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