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 そういえばいつもは屋内でも脱ぐ事の少ない上着を今は脱いでいる。しかも今朝は少し気温が低かったのに床の中で汗をかいていたのを思い出した。 「そんな事までお判りになるんですか」  老人は返事をせずに嬉しそうに目を細めた。 「もしご迷惑でなければ診察してお薬を処方して差し上げましょうか?」  早矢兎の家は分家だが昔から本家お抱えの漢方医の世話になっていた。直接会う機会は滅多になかったが処方された生薬を母親が毎日煎じて用意して呉れているのだった。  その話をすると老人は少し驚いた表情をして見せた。 「左様ですか。では私が余計な事はしない方が宜しいですな。ただ、人の身体は常々変わるもの、一度その御方に診て貰うのが…、いや差し出がましい事を言って申し訳ありません」  そう言って今度は彼方(あちら|)此方(こちら)の甘味処の評判に話題を移したが、早矢兎はさっきの言葉がずっと引っかかっていた。否、言われて初めてその漢方医の処方を受けているのに体調が芳しくない事を自覚したのだった。老人の話に上の空で頷きながら話の切れ目を窺っていた。 「あの、さっきの話ですが矢張り診て頂けませんか」  老人は一瞬驚いた顔をした後、目を細めて早矢兎を見た。 「ああ、良うございますよ」  そう言うと、長命寺と道明寺の食べ比べと同じ調子で、早矢兎に話をする様促した。
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