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一日分ごとに分包してもらった生薬の袋を手に早矢兎は帰宅を急いだ。店で立ち眩みしたせいか記憶の流れの一部分に(もや)がかかっている様な気分だった。 今夜は自宅で許嫁の南欧子と、母親と三人でささやかな晩餐の予定があったのだ。 「只今戻りました。遅くなって申し訳ありません」 既に食卓についていた二人が早矢兎を見る。子供のころ父親同士が証文を交わして決めただけの許嫁は今夜も美しく着飾って早矢兎の母親と談笑をしていた。形の良い唇には紅が引かれその魅力を強調している。 「まぁ、南欧子さんをお待たせしてまで買い物ですか?何か素敵なプレゼントなら良いのですが」 手に持った大きな紙袋を見咎められて早速母親に問いただされる。 「いいえ、これは…」 ばつが悪くなり言い淀んだ所に南欧子が赤い唇の口角を上げて微笑みを作り助け舟を出してくれた。 「それは何ですの?」 少し躊躇ったが、現在の体調を含め、知り合った漢方医に処方してもらったことを素直に告白した。 母親は心配そうな表情になる。 「まあ、そんな素性も知れぬ方の処方なんて…大丈夫なんですか?」 「しかしお母さん、今の処方では相変わらずの不調。違うものを試してみる価値はあると思いまして」 少し不安気な母親を通り越して早矢兎は手伝いに袋を手渡し洗面所に手を洗いに行った。 薄暗い照明の下で鏡に映る自分の顔は微かに上気している。あの時荒い獣の様なものに深く口付けをされた気がするのだが夢だったのだろうか。
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