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西暦2156年、宇宙開発は進歩し、人類は生活圏を地球以外にも、月、火星、巨大スペースコロニー群へと広げていた。
月にはドーム状の月面都市が数多く造られ、そのうちのひとつ、日本が管理する「月ノ都」は、マザーコンピュータ「ツクヨミ」に管理されしばらく平和な時間が流れていたが、ある日ツクヨミが反乱を起こし、自身の管理下にある強力な5機のガード用アンドロイド、「月ノ使イ」とその子機、眷属を操り、一夜にして都市の全てを制圧した。
この事態は全人類に衝撃を与え、他の月面都市の人々も、日本も日本以外の国も、閉じ込められた住人の救出を試みたが、ツクヨミの守りの硬さに失敗に終わり、多くの人が月ノ都の住人の生存を絶望視した。
それから20年の時が流れた2176年、多くの人に見放された月ノ都は、廃墟に覆われ、わずかに生き残った人々は、徹底的にツクヨミに管理され、奴隷のように働かされて、地獄のような生活をしていた。
人の気配は一欠片も無く、ドーム越しに見える星のわずかな明かりしか無い、いまや廃工場しかない工場地帯。
瓦礫が散乱し、左右に廃墟が並ぶ悪路を、ひとりの少女が歩いていた。少女の容姿は闇に覆われ、大きめのキャスケットを深く被っていることしかわからない。
そのとき、少女の背後から音もなく、はっきりとした姿はこの暗さでわからないが、子牛ほどの大きさで目の部分が蒼く光る、クモのようなロボットが高速で近づいてくる。そして、少女のすぐ後ろに迫ったとたん、重いエンジン音のような唸り声をあげ、固そうなアームを少女の頭の上に振り下ろした。
「気づいていないとでも思ったか?」
少女は静かにそう言うと、即座に振り向き、素早く右手の拳をそのロボットの頭部に叩き込んだ。軽そうなパンチだったがロボットの頭部は派手に砕け、そこから青い火花をバチバチ撒き散らしながら痙攣し、ぐしゃりと地面に崩れ落ちた。
直後にどこからか爆発音が聞こえ、遠くから煙が上がる。
「ここまで来たら、もう、身を隠す必要はないか…」
どこか寂しげに少女は呟くと、煙の出ている方へと走りだした。
続く
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