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まあ、当然と云えば当然である。オレをはじめココに居る仲間は皆、戦闘なんか生まれてこの方したことも無ければ、ロクすっぽ働きもしなかった怠け者たちばかりなのである。
鬼退治なんか、したくもかゆくもないのだ。
「ねえモモ太郎くん。もう帰ろうよ。命は一つだけだよ?あたし無くしたくないよう‥‥」
そう、つぶらな瞳でオレに訴えかけるコイツは、力強い猛犬どころかタダの子タヌキの化身で、名前はタヌ子という、オレが一人で勇敢なる旅に出てから一番最初に出会った妖怪少女【ちっちゃ可愛い】で、道端で腹を空かせて死んだように転がっていたところを優しくしてやったら、ニコニコ顔で勝手についてくるようになった厄介者だ。
「そ、そうだよモモ太郎。なた帰ろうぜ?帰ってとっととゴロ寝しようぜ?」
気が強い癖に泣きべそかきながらやたらと帰宅したがるコイツは、どうやって日本にやって来たのかは全く見当がつかないが、ハチドリの化身の妖怪少女【気が弱くてボーイッシュ可愛い】で、名前は女の子なのにハチベエと云う、親のネーミングセンスはどうなっているのか、両親を呼び出して一晩腹パンしながら問いただしたい。
てか、なんで外来種のコイツの名前がハチベエなのか、うっかり付けちゃったのか?ハチベエだからうっかりしちゃったのか?
まあそれはそれとしてコイツも、たまたまオレが川辺で水浴びしていたら、空腹の余りいきなり空から降って来て、オリンピックなら金メダル確実な、水ハネが極端に少ない飛び込み(墜落)を川に決めてみせた厄介者だ。
だが、悲しいことに根無し草のオレたちにはハナから帰る家なぞない。
コヤツめ。一体どこでゴロ寝する気なのか、一週間ネチネチと問い詰めたい。
「みなが言う事はもっともやよ。そう思はりませんか?モモ太郎はん」
怪しさ満載の京言葉らしき物言いを使ってオレに話しかけてきたのは、よりにもよって山の中で野宿していたオレの血を吸おうと近付いたところを見つけ、くんずほぐれつ、やっとこさとっ捕まえた腹減り山蛭の化身の妖怪少女【キモイ山蛭なのになんでかスッゴイ美人】で、名前はチイスウタロカと云う“蚊”みたいな厄介者だ。
「な、チイスウタロカ」
「チイスウタロカ♪って!ちょいとあんさん!ちがはりますよ!!」
えっと山蛭なのに鬼の形相でオレを睨んだので命おしさに訂正。
本当の名はヒルナンダスだ。蛭だけに。
「もう!間違えんといてや!」
ヒルナンダスはプリプリしながらプイッとそっぽを向く。
うん。
まあ、これら仲間たちの名前からも滲みだすかの様に、どう考えても本物の鬼には絶対勝てそうもない面子なのだが、それを率いるオレも大概だから何も言うまい。
だってオレ、生まれてこのかた三十八年。育ての親の爺さんと婆さんの脛をかじり続けてきたお陰で、ついに愛想を尽かされて勘当されて、村のみんなからも無駄飯食いの穀潰しの阿呆【以下略】……って言われまくった挙句、村からも追い出されてしまい……。
くっそ!今更ながら思い出してもクソ腹が立つ!
例えドブ川から拾って育てたんだったら死ぬまで面倒見ろや!それが仁義ってもんであろうが!義理の親子の愛情ってもんやろが!こんちくしょう!!
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