序章 忘却の記憶

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苫小牧駅のホームに汽車が入ってくる。 ディーゼルエンジンの匂いがする白い煙を吐きながら、汽車は次なる駅へと走り去って行く。札幌行きの北斗星を見送ると、日高線の少ない乗客だけがホームの残された。 陽が落ちた真冬の北海道の夜空が晴れていると、 気温がグングン下がってまつ毛や吐く息を凍らせてしまう。 制服の上に大きめのコートを着て、分厚いマフラーをぐるぐるに撒いた学生が数人立っていて、見慣れた面々だけど私も彼らも互いの名前さえ知らない。 背の高い男の人を見るとハッとしてしまう。 首が長く癖のある髪の後姿を見ると、なぜか泣いてしまいそうになる。 だけど、私は誰を探しているのか思い出せない。 思い出すのが、怖い。 思い出してはいけない。 そんな警告灯が頭の中でチカチカと点滅していた。
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